当協会顧問 北出先生から紹介の論文
2020/11/28Facebookでシェアされていた記事
08_01_三浦光哉_学習障害者
小学校の通常学級での取り組み
大阪府A先生の事例
本校では「通常の学級における発達障がい等の子ども達への支援の工夫」をテーマに2年間の研究に取り組みました。
毎日・3分・1年間のビジョントレーニングを含めた教育活動によって,多くの児童の視機能に何らかの改善が見られ,特に輻輳距離(より目)と図形模写に関しては,大きな変化が見られました。また,図形模写の改善傾向が2年生3年生で大きいことが特徴として見られました。以下に紹介します。■「見る力」という視点
最初に子どもたちの実態を正確に知るために,大学の先生をお呼びして,全てのクラスの授業を参観していただきました。すると,「目の固い子が多いですね」と,子どもたちの「見る力」についての課題が指摘されました。
そこで,目についてのアンケートや,近見視力・追視などの視力検査を行ったところ,眼球の動きが硬く,「見え方に困り感のある」児童が,かなりの数いることがわかりました。
見え方,つまり視機能に弱さがあると,行や文字を読み飛ばしたり,黒板をうまく写すことができなかったり,授業の進度についていくことができない等の学習での困難を生じます。視機能について学んでいくと,心当たりのある児童の名前がどんどん上がりました。「学力」以前に,そもそも「うまく見ることができていない」児童がいるのではないかということがわかりました。
■見る力をきたえることは,「学ぶ力の育成」につながる
授業の約75%は見て学ぶものといわれています。また,昨今の子どもを取り巻くテレビやゲーム・ケータイの普及などの状況を考えると,子どもの視機能は,放置すれば悪化してしまう状況です。
見る力をきたえることで,授業への集中力が高まったり,読む正確さがあがったり,読むスピードが速くなったりするということは,困っている児童だけでなく,「困り感のない」児童にとっても意味のある活動ではないかと考えられました。
そこで,全クラス全児童を対象に,見る力をきたえるためのビジョントレーニングに取り組むことにしました。
■学級全体で行うビジョントレーニング
朝の始業前の5分間や授業のはじめの時間を使って,全クラス全児童を対象にビジョントレーニングを行いました。
どのクラスでもすぐに取り組めるように,音声CDを全クラスに配付し,トレーニングの内容には,次の3つを組み合わせました。
①上下・左右に親指の爪を交互に見る(サッカード)
②ゆっくりと円を描いて動く親指を見る(パーシュート)
③焦点を合わせるために目をよせる
■ビジョントレーニングの効果
1.近見視力検査(近くがどれくらい見えているか)
116人中,改善傾向を示した子が10人。悪化傾向を示した子が4人。
遠視の子は加齢とともに近見視力がよくなっていくことがあるが,改善した児童の中で,遠視傾向の子は1人だった。また悪化した4人も0.2以下の小さな変化であった。
2.輻輳・追視検査(どれだけ近くまで目の焦点を合わせられるか)
改善傾向した子が58名(輻輳距離10cm以下が63人→99人に増加)。悪化傾向の子が14名(そのうち13名は,5cm→10cm等の5cm未満の変化)
輻輳運動が改善されると,板書が写しやすくなったり,教科書を読みやすくなることが考えられる。
3.追視検査(目標物を目で追いかける検査)
視線が目標物から外れてしまったり,顔が動いてしまったり,目の動きがぎこちないなど,何らかの異常があった児童が,40名から20名に半減した。
追視運動は,教科書の音読や漢字の書き順などで必要になる目の動きなので,子どもの学習にもよい影響が期待できる。
4.図形模写(図形を正確に写せるかどうか)
改善傾向が71名(悪化傾向が4名)。全問正解(5問)が21名→55名と倍増した。
形を捉える力は,ひらがなやカタカナ,漢字の学習や算数の図形領域などの学習に必須である。
■児童の感想
視機能の改善が大きかった2名の感想を紹介する。
<6年生女子>
最初は,「こんなことで,目が良くなるのか」と思っていたけど,毎日毎日ビジョントレーニングをしていくうちに,教科書の字がスラスラ読めたり,一定の場所を見ていて,違うところを見ても,ぼやっとする数が減りました。」だからこれから毎日毎日ビジョントレーニングをしたらもっと目が良くなるのかな?と思っています。
<6年生男子>
めんどくさいけど,みんなもしてるから,つづけていると,5年生のおわりぐらいに,字がぼやけて見えることがなくなっていることに気がつきました。
「ビジョントレーニングをやっといてよかったな~」と思いました。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
特別支援学校への教育相談を通じて
兵庫県T先生の事例
特別支援学校では,地域の幼,小,中,高校等に通う子どもたちの,学習や行動等についての相談にも応じています。本校の場合,視機能に関する問題で相談に訪れるきっかけの多くは2つに分けられます。
(1)病院の受診や就学相談の際に行われる検査の結果から,担当医師や心理士に紹介されて。
(2)「ひらがなが書けない」「文字をよく間違える」「漢字が覚えられない」等の理由で。 このような相談があった場合,まず本人・保護者・先生から状況や困り感の聞き取りを行い,眼科医の受診状況を確認したり,必要があれば弱視についての説明を行います。その後,視機能の状況を調べるために,以下のようなことを,状況を見ながら選択して観察します。
■幼児
・テーブル上でのボール転がし
・近見視力
・眼球運動(小物またはライト使用)
(追視,凝視,寄り眼,2点間)
・枠に沿っての円,ジグザグ線引き
・簡単な図形視写
・交差線追視(*1 P53,*2 P52,53)
・ジオボード
・9ドット点つなぎ
■小学生・中学生
・近見視力
・眼球運動(小物またはライト使用)
・読みの検査(DEM)
・近見,遠見視写
・簡単な図形視写
・25ドット点つなぎ
・ジオボード
・テングラムパズル
・「国語」「社会」(1,2年生は「算数」)の教科書の音読
・「国語」「算数」のノートの書字
・(小3以上,描画視写で弱さが少ない場合)Rey複雑図形(同時再生,遅延再生)
そして,観察の結果より,それぞれ次の中から1~数種類を選んでトレーニングとしてお勧めします。
■「眼球運動に弱さが感じられた子」に
眼球運動,マスコピー,文字読み(*1 P75をA4~A3サイズにコピーしたものの横・縦各全文字読み,横・縦各両端の文字読み,両斜め各3往復読み),文字カードタッチ(ひらがな,数字,アルファベット),ブロックストリングス,幼児教材の線引き・迷路・数字むすび(透明のクリアファイルに挟み,ホワイトボードマーカーで書くと繰り返し使用できる),オセロ,ボール遊び,ラケットでのピンポン玉連続打ち上げ,パソコン・タブレット等。
■「視覚認知に弱さが感じられた子」に
ジオボード,点つなぎ(5×5ドット等),テングラム(ボール紙で作ったもの),各種パズル,パソコン・タブレット等。
<改善例>
■Aさんの場合 <5→6歳>
トレーニングの内容:眼球運動,迷路線引き,ボール遊び,ジオボード,(音韻遊び)
5月
追視 頭の動き 縦4,横3
眼の移動 縦4,横3
眼の揺れ 縦5,横5
図形視写 (→右の画像参照)
8月
追視 頭の動き 縦5,横5,斜め5,円5
眼の移動 縦5,横3,斜め3,円4
眼の揺れ 縦5,横5,斜め4,円4
図形視写 (→右の画像参照)
■Bさんの場合 <3→4年生児>
トレーニングの内容:眼球運動(ライト→指標使用),文字読み・端読み,迷路・数字つなぎ,オセロ等,テングラムパズル,(感覚遊び,行当て板活用)
1月
追視 頭の動き 縦5,横5,斜め5,円5
眼の移動 縦4,横3,斜め3,円3
眼の揺れ 縦5,横3,斜め3,円3
寄り眼 7センチメートル(左右共白眼大きく残る)
2点間 頭の動き 縦5,横5,斜め5
眼の移動 縦5,横5,斜め4
眼の揺れ 縦5,横5,斜め4
遠見視写 81秒(→右の画像参照)
図形視写 (→右の画像参照)
7月
追視 頭の動き 縦5,横5,斜め5,円5
眼の移動 縦5,横5,斜め4.5,円4.5
眼の揺れ 縦4.5,横4,斜め4,円4
寄り眼 5センチメートル(右眼のみで追う。左眼やや離れる)
2点間 頭の動き 縦5,横5,斜め5
眼の移動 縦5,横5,斜め4.5
眼の揺れ 縦5,横5,斜め5
遠見視写 57秒(→右の画像参照)
図形視写 (→右の画像参照)
※【評価はいずれも :1(弱い)→5(普通)】
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
ビジョントレーニングとの相乗効果?
神戸市「きこえとことばの教室」M先生の事例2
小学校3年生で,2年生のときから「きこえとことばの教室」に通級していますが,知的には境界線域にあり,言葉によるコミュニケーションが上手にできない子どもです。
初めての来室の際に,眼球運動が上下・左右・ななめ・回転・輻輳のすべてに関して動きが悪い状態でした。他の専門機関での教育相談でも眼球運動に関しての指摘があり,北出先生の紹介もされていたそうです。
そこで,週に1回の通級指導でビジョントレーニングを行いました。練習が抜ける週もありましたが,下記のような教材から始め,「シェイプ・バイ・シェイプ(資料1参照)」「ブロック・バイ・ブロック(資料2参照)」を加えていきました。
●ビジョントレーニングPCソフトのトレーニング……15分間
●形のパズル(幼児用の木製のもの)……1巻・2巻はスムーズに進む。4巻は上に置いてする。
●絵の中からたくさんの図を見つけるプリント始めてから4ヶ月で,眼球運動のすべてに関して特に問題を感じなくなりました。その様子は,保護者の方にもビデオによって確認してもらいました。その後前にかかっていた医療機関でも,眼球運動が大変よくなっていると言われたそうです。
さらにそれから5ヶ月がたちますが,眼と手の協応がまだ苦手であると思います。部分を見て全体をイメージする課題と,動くものを記憶することに関しては,とても伸びています。パソコンの操作が上手にできますので,PCソフトの教材は効果的であったと思います。
日常生活の面では,しっかりと見ることができるようになったからでしょうか,会話がスムーズになったように思います。今までは会話がずれてしまい,コミュニケーションがうまくはかれないことが多かったのです。見るということで,状況把握が上手になってくるようにも感じています。
また,児童は姿勢保持が苦手だったので,一本足の椅子も並行して使っていました。見ることが上手になり,姿勢も少ししっかりしてきたので,言動が落ち着いてきました。
学習面では,板書を写すことがやや上手になったように思います。ただ,この点は,その時の気分や集中力に左右されるので,指導者との信頼関係も影響するように思いますが。
何のケースでも,そういえるかもしれませんが,改めて考えると,視知覚のトレーニングと,その他の言語指導や運動面の練習,指導者との信頼関係づくりなどは,並行して進めていけば,さらに上達するように思います。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
通級での取り組み~通常学級との連携の元に~
兵庫県N先生の事例
本通級指導教室では,児童全員に視覚機能のチェックを行い,必要に応じたビジョントレーニングを行っている。しかし,通級での指導は,週に1回1時間(45分)程度と非常に少ない。また,1時間すべてをビジョントレーニングに充てることはできない。そのため,通常学級での支援も不可欠であると考え,視覚機能のチェック結果をもとに,学級担任と一緒にその児童に合った支援を考えていくようにしている。
■通級での視覚機能のチェック結果
通級指導を行っている1年生~6年生の児童30名に,「近見視力」「眼球運動」「DEM」「VMI」のチェックを行ったところ,何らかの困難が認められた人数は以下の通りであった。
近見視力3名,眼球運動21名, DEM(横読み速度)17名,VMI18名
チェックの結果,実に半数以上の児童にビジョンに関する何らかの困難が見受けられた。■トレーニングの実際
通級指導では,学習時間の最初の10~15分程度をビジョントレーニングの時間に充てている。視覚機能に困難がない場合でも,集中力の低下や多動性・衝動性がみられる児童にビジョントレーニングを行うことで,集中して取り組む時間が伸びる,体のコントロールができるようになるといった効果を実感している。
視覚機能に困難が認められた児童には,さらに下記の内容からその児童に合ったトレーニングを組み合わせて行っている。
<取組の例>
【体の運動】
アヒルとハト・ラインウォーク・トランポリンなど感覚の入力・バランスボールなどで体幹運動・まねっこ体操 など
【眼球運動】
指標を用いて眼球運動・ブロックストリングス など
【視覚認知】
点つなぎ・タングラム・図形ブロック・ジオボード・迷路・間違い探し など
【協応運動】
お手玉タッチ(手,足,膝,棒を使って)・ナンバータッチ(手元,前方)・マスコピー・風船バレー・ピンポンキャッチ・テーブルピンポン・コップ積み など
■ビジョントレーニングの成果
下記は,最初のアセスメントで大きな困難を示した[A][B]2人の児童の変容である。トレーニングの実施期間は3か月で,週1回,10~15分を7回程度行った。
<A児>
【トレーニング前の児童の実態】
鏡文字や「ぬ」「ね」などの似た文字の書き間違い数字の「6」と「9」の読み間違いなどがあった。
【検査結果の変容】
DEM(横読み速度):120秒以上→53秒(基準値:46~76秒)
【トレーニング後の児童の様子】
トレーニングを続けていくことで,書き間違いや読み間違いが減ってきており,書字の速度も上がってきている。
<B児>
【トレーニング前の児童の実態】
眼球運動に困難があり,読みのたどたどしさや読み飛ばし,板書を写すときの写し間違いなどの苦手さがあった。
【検査結果の変容】
DEM(横読み速度):120秒以上→79秒(基準値:36~60秒)
【トレーニング後の児童の様子】
読みの流暢性は今後の課題としてまだ残ってはいるが,読み飛ばしもかなり少なくなってきた。板書の写し間違いが減ることで,以前にもまして学習に集中して取り組めるようになってきている。
■指導を通して
トレーニングを継続して行うことで,児童からは「教科書が読みやすくなった。」「野球が上手になったよ。」と効果を実感した感想が聞かれている。また,保護者からは,「音読の宿題がスムーズになってきた。」「自分から本がほしいと言ってきてびっくりした。」といったお話を伺うことができた。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
視覚機能に難しさのある子どもへの,読みの力を高める通級指導の在り方
福岡県M先生の事例
■A児の様子
小学校1年生の2学期に,母親・担任から,ひらがなを読むことが難しいという相談があった。
・国語の授業の音読の活動をとても苦手としており,声を出さずに口だけ動かしている様子がたびたび見られる。
・国語のテストでは,問題が読めずに泣き出してしまうこともある。
・テストの際は,担任が文章や問題文を読み上げることで,書いている内容を理解することができる。
・言葉による指示は正確に理解して,自分で行動することができている。
ひらがなの読みの実態調査を行った結果,A児は50音中6音しか読むことができなかった。これらのことから,A児は,ひらがなの読み方がほぼ理解できていないことが分かり,3学期より通級指導教室を利用することになった。
■通級での指導目標
【第一段階】
〇 ひらがな50音を読むことができる。
〇 文字のかたまりを読んで,意味を理解することができる。
【第二段階】
〇 濁音・半濁音を読むことができる。
〇 2~3語文程度の文を読んで,意味を理解することができる。
【第三段階】
〇 促音や拗音を読むことができる。
○ 多語文×5行程度の文を読んで,意味を理解することができる。■第1段階における指導(1年生の3学期)
第1段階では,単語読み→一文字読みの順で,ひらがなの読みができることを目標とした。文字の指導とあわせて,以下のビジョントレーニングを,通級指導の始めに,5~10分程度の時間で実施するようにした。
A児が意欲をもって楽しみながら取り組むことができるようにするために,A児と相談して内容を決めたり,「前回はここまでできたから,今日はどれだけできるかな」などの言葉かけを行い,目標を具体的にしたうえで取り組んだりするようにした。
<追従性眼球運動のトレーニング>
鉛筆を使った眼球体操,お手玉タッチ,カード分けなど
<視空間認知のトレーニング>
ジオボード,パズルを使った形の再現,体の動きを模倣するまねっこゲームなど
■第2段階における指導(2年生1学期)
第2段階では,濁音・半濁音の入ったひらがな読みに加え,カタカナの読みができるようになることと,短い文章(3~4語文×3行程度)を読んで,その意味を理解できることを目標として文字の指導を行った。
これは,A児が使用する教科書や日常的に読むものの中には,カタカナが多く使用されており,カタカナを読めないことが,意味を理解する際に大きく関係していることが明らかになったからである。
ビジョントレーニングでは,追従性眼球運動の動きについて,まだ課題が残っているため,第1段階から引き続いて,鉛筆を使った眼球体操やお手玉タッチ,ビー玉キャッチなどを実施した。それに加えて,より目の動きに焦点を当てたトレーニングを実施するため,パソコンソフトを使ったトレーニングを取り入れていくこととした。
■第3段階における指導(2年生2学期)
第3段階では,促音や拗音の入ったひらがな読みに加えて,第2段階で達成できなかった課題であるカタカナの単語読み,さらに,ある程度,長い文章(8語文×5行程度)を読んで,その意味を理解できることを目標に,文字の指導を行った。
ビジョントレーニングでは,追従性眼球運動だけではなく,跳躍性眼球運動の動きも高めていくために,「よくみるランド」で実施した「漢字の間」「我慢の間」「忍者の間」の課題を取り入れていくことにした。
また,この時期に学級で「お手紙」の音読大会が行われた。A児から,時々,自分の読むところが分からなくなるときがあると相談を受け,通級での学習の時に,どのようにしたら読みやすいか,一緒に考えることにした。
指差しながら読む,スリットで隠しながら読むなどのいくつかの方法を試した結果,A児は,黄色のクリアファイルの線に合わせて読むガイドを選択し,「これだったら,どこをよんでいいか,分かりやすい」と言って,教室での練習の際にも,使用することにした。
本番では,このガイドは使用せず,自分の役割のセリフを,教科書を見ながらしっかりと読むことができた。まだ拗音が入った単語を読み間違えたりする様子は見られたが,教師が支援することなく,自分で最後まで読むことができた。
■結果
第3段階終了後のテストの結果では,指導開始前と比較して,ひらがな・カタカナの一文字読み・単語読みの全ての項目において,正解した数が多くなっていた。
2年生の3学期からは,テスト問題も,全部を読んでもらうのではなく,分からない部分を伝えて読んでもらうというように,教師からの支援を少しずつ減らしている。テストに対する苦手意識も減少してきたようで,以前は,困った表情になったり泣き出したりする様子が見られたが,そのようなことは全くなくなってきた。
また,国語の授業に対しても,「以前は,大嫌いだったけど,少し分かるようになってきたから,ちょっとだけ楽しくなったよ」という答えを聞くことができた。引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
知的な遅れと視機能に課題のあるAくん
福島県T先生の事例
通常学級に在籍する軽度の知的障がいのあるAくん(小学2年生)の事例です。
A君は,音読に非常に時間がかかり,板書を書き写すことができないことが度々あります。漢字は線が一本足りなかったり多かったりと,形を正確に書くことができません。ひらがなやカタカナは筆圧が低く,丸みを帯びた形で書き,終点の押さえができませんでした。
注視・追視のテストを行ったところ,寄り目ができないこと,追視時に目をスムーズに動かせないことがわかりました。また模写テストをしたところ,形をとらえたり,線の重なりを意識したりすることができていないようでした。
視機能の問題がAくんの困難をより増加させていると考え,ビジョントレーニングに取り組むことにしました。週3回の個別のトレーニングに加え,家庭でも10分程度の課題に取り組んでもらいました。また,習得に合わせてトレーニングの内容を変えたり,その時その時のAくんの課題に合ったものを選んだりして,本人が飽きずに継続して取り組めるようにしました。家庭でも,学校でのトレーニング内容に合わせて,部分的ではありますが毎日取り組んでもらいました。●第一段階(30分):6週間
1 眼球運動のトレーニング……指標を使っての寄り目,指先を見よう,目のジャンプ,数字カード,カードを分別
6週目には寄り目ができるようになりました。保護者からは筆算の時に足す数字を間違わなくなったという報告がありました。また,拡大した教科書であればスムーズに読むことができるようになりました。
●第二段階(45分):3週間
1 眼球運動のトレーニング……カードを分別,文字さがし,ランダム読み,線なぞり,線めいろ
2 お楽しみで塗り絵
線めいろはよく間違うことが多くあったため色鉛筆を使って取り組みました。徐々に線を見分けることができるようになり,色の手助けがなくとも鉛筆だけでできるようになりました。きのこやリンゴなどに色を塗るなどの活動も本人の楽しみとなり,また手を使ういい運動にもなりました。
●第三段階(45分):6週間~継続中
1 ボディイメージのトレーニング……両手でグルグル
2 視空間認知のトレーニング……ジオボード,テングラム・パズル
3 お楽しみでスーパーボールのキャッチボール
線めいろをできるようになったので,ボディイメージや視空間認知のトレーニングに移ることにしました。本人のストレスを軽減するために,比較的得意なジオボードを中心に取り組みました。初めは見本とジオボードに1から5の数字を書き,数字を照らし合わせて輪ゴムを引っかけるようにしました。初めは数字の手がかりを声かけし,一緒に「〇番から△番にかける。」などと声に出すようにしました。
手先も不器用だったため,輪ゴムの出し入れや片付け,輪ゴムをジオボードから取ることも大事な活動としました。徐々にではありますが,難しい課題もできるようになってきています。
ビジョントレーニングを始めて15週間,少しずつではありますが,変容が見られるようになってきました。今までほとんどできなかった板書をできるようになり,音読でのつまづきが減りました。また,塗り絵を好んでするようになりました。使う色も多くなり隅々まできれいに塗ることができています。字を書いたり読んだりする学習だけでなく,絵を描く,体を動かすなどの学習にも良い影響があり,全体的に本人の学習に対する意欲が高まりました。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
「LD通級教室」での実践
長崎県N先生の事例
LD通級教室で3年以上支援を続けている,小学校5年生の女児の事例です。
児童への日常の観察からは,「音読が逐次読みとなり,内容理解も困難である」「字形が整わず,新出漢字などの記憶の難しさがある」などの状況が見て取れました。
当初に行ったWISC-3の結果から,次のような傾向が見られました。
・知的発達は境界域にある
・動作性IQが言語性IQに比し,5%水準で有意に低い
・「組み合わせ」「符号」の課題で,評価点が低い
以上のことから,「実行機能の向上を図る」「跳躍性眼球運動の向上を図る」「短期記憶の向上を図る」の3点を目標に,ビジョントレーニングを含む指導を行いました。【指導Ⅰ期:2008年9月~2009年7月】
○指導目標
跳躍性眼球運動を中心としたビジョントレーニング
○指導の実際
本児には週に1度,90分の通級指導を継続した。各セッションにおいて15分程度をビジョントレーニングとして設定し跳躍性眼球運動の向上をねらった活動を行った。また,月に1度DEM数読み眼球運動テストを計測し,眼球運動の向上を見る指標とした。
おもに行った活動としては,「眼のジャンプ」シートやLDセンターのマスコピーを活用してきた。「眼のジャンプ」シートにおいては,当初,数概念の欠如と,構音の不器用さから数唱自体の難しさが見られたため,黙読と音読を併用しながら行うようにした。また,トレーニングにあたってはメトロノームを使用し,テンポに合わせて眼球を動かすようにした。習熟するにつれテンポが数値として高くなることで,本児にとり目標的に取り上げられたため有効であった。
全般的に,横方向の跳躍性眼球運動の際に,リズムに遅れたり,注視位置のずれが認められたりした。そのため特に左右の周辺視野を広げるために「両手でグルグル」を取り入れたりもした。
児童の眼球運動の推移については適宜録画を行い,その変容を確認しながら取り組んでいった。
【指導Ⅱ期:2009年9月~2010年9月】
○指導目標
眼球運動と身体運動の統合を図る
○指導の実際
「間違い探し」における視点の軌跡をアイマークレコーダーにより記録し,考察したところ,跳躍性眼球運動に加え,視覚的な短期記憶であったり,ボディーイメージの弱さも影響していたりすることが示唆された。
書字をマス目に整えることができない,リコーダーなどの操作が苦手,構音自体の滑らかさの欠如など不器用さも見られることから,眼球運動の向上に加え,様々なボディーイメージの向上及びその統合が必要であると考えられた。
Ⅱ期の指導においては,跳躍性眼球運動を中心としたビジョントレーニングを中心としながらも,意図的に重心動揺を与えたり,複数課題を遂行させたりするなど,実行機能の賦活を意図した取り組みを行った。
Ⅰ期にも行った跳躍性眼球運動をバランスボード上で行ったり,逆唱に取り組んだりすることや,矢印体操,お手玉などボールを受けたり,目標に当てたりすることなどを取り入れて指導を継続した。また,ブランコを揺らした状態で,教師の示す単語を読むなど,前庭動眼反射でアシストしながらの眼球運動を引き出すことにも取り組んできた。
【指導の成果】
DEM(眼球運動テスト)では,次のような推移が見られた。
2008年9月(指導当初) 縦読み70.8 横読み115 比率1.64
2010年9月 (現在) 縦読み47.1 横読み48.2 比率1.02
次に,学級及び通級指導において行ってきた支援によって見られた本児の成長の中から,ビジョントレーニングの寄与を大きく受けたと思われる内容について挙げる。
・行単位のとばし読みは減り,平易な文章であれば図書室で借りて読む姿が
見られるようになった。
・単語の勝手読みについては,語彙の増加と共に減っている。
・板書転記は,当該学年児童と大きく差がなくなったため,授業中の活動時間の
保障が出来るようになった。
・バレーボールクラブに入部した。
・「眼のジャンプ」シートを用いたトレーニングにおいて,指導当初は
テンポ60でも達成できなかったが,現在はテンポ120で達成できる。
・委員会の放送担当として,原稿を読み上げての全校放送を行うことが出来た。
・新出漢字の学習についても意欲をひどく失うことなく現在も取り組んでいる。
【考察】
本事例では,跳躍性眼球運動の弱さが,板書の書き写しや,音読に影響を与える1つの要因になっていたと思われる。
現在,ビデオによる眼球運動の向上やDEM眼球運動テストの短縮はみられるが,学習支援的なフォローは今後も必要である。それに加えて,ふり仮名支援や分かち書きなどといった,環境整備を継続する必要もある。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
楽しかった漢字学習
東京都U先生の事例
小学生の時,学習障害ではないかと言われた生徒の事例です。
中学校へ入学してきた段階で,その生徒は自分の名前も書くことができませんでした。保護者からは,生活に必要な漢字を読めたり書けたりできるようにしてほしいとの要望を受けました。そこで,漢字を部分に分解し,それぞれの意味を学習してから,粘土で漢字を作る学習を行いました。 粘土は,手にべたべたと付かないように,また色も白で扱いやすいので,超軽量粘土を使いました。一晩乾かしてから,ポスカで色つけをします。生徒は楽しそうに色塗りをしていました。その後は,自分の覚えたい文字を取り上げて,いくつも作品を作りました。
生徒は,この学習がとても楽しかったと言っていました。家庭からも,楽しく取り組んでいるようだとの話を聞きました。
この学習をきっかけに,生徒の漢字に対する抵抗感が少なくなったように思いました。
粘土を扱うと時間がかかるので,現在は同僚に作ってもらったジオボードを使って漢字を作ったり,これまた手製のタングラムなどを使って形を作ってから授業に入るようにしています。どの方法も手探りですが,学年の先生方と教材作りに励んだり,ビジョントレーニングをしたり,テストをしたりしながら,楽しく授業に取り組んでいます。
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
特別支援学校(高等部)における実践
石川県I先生の事例
知的障害特別支援学校に通う高等部2年男子の事例です。WISC-Ⅲの結果は「FIQ40未満」ですが,療育手帳はBの判定を受けています。
見本と同じように簡単な形が書けない,見本と同じ方向に揃えてものが置けないといった様子が見られ,また認知面や指先の細かな動きに困難さがあり,落ち着きがなく,離席の多い生徒でした。行動の様子から,まず「ものを見る」力を育てる必要性を感じ,眼球運動を確認したところ,動く視標を見て眼で追い続けることができず,頭を固定すると眼球が全く動かない状態でした。そこで,ジオボードや視覚認知パズルによる形作りのほか,DEM,VMI,MVPT-Ⅲなどの検査を行いました。 その結果,次のような状況でした。
・眼球が全く動かず,頭を動かすことでカバーしている。眼を寄せることも全くできない。
・DEMでは,縦読みは,繰り返し・読み飛ばし・間違い・不要な数の追加などの続出で最後までたどり着けず,横読みは1行目の段階で最後までたどり着けず,検査不能。
・VMIでは,手本の三角形を見て四角形を書いている。
特別支援学校の高等部は教科担任制ということもあり,クラスの生徒であっても,トレーニングのためのまとまった時間がなかなか取れません。そこで,隙間時間を活用し,毎日5分を目処に,以下の方針でビジョントレーニングを行いました。
(1)眼球運動トレーニングとして,追従・衝動・輻輳を行う
(2)ジオボードによる模倣を,1日1パターン行う
(3)上記2つを“できる限り毎日”行う
時間に余裕のある時は,日常生活や学習上において,できるとよいことを「ものを見ること」と絡めて練習し,1ヶ月毎にアセスメントを行い進捗状況を把握しました。
半年行った結果,次の成果が得られました。
・眼球運動については,頭部を動かさなくても指標を追えるようになり,眼を寄せることもできるようになった。
・DEMについては,縦読みは若干の繰り返しなどが見られたものの,最短25秒で読み切ることができるまでになった。また,横読みは一定間隔なら,かなり読めるようになった。
・VMIやペグボードでは,半年で三角形を見て三角形を構成できるようになった。また,2つの形の関係を正しく模写できる回数が増えた。
・ものを見続けることができるようになったことで,「なぞりがきができる」「鋏で線を切る」「包丁で皮が剥ける」「電卓による計算が正しくできる」「ものを同じ方向に並べることができる」「見本と同じように製品を作ることができる」など,日常生活や学習上できることが多くなった。
これらの結果は,「ものを見る力」が不足していると思われる場合,知的障害者にも,また実年齢が比較的高い生徒にも,ビジョントレーニングが有効であることを示すものだと考えます。
加えて,学校での取り組みをコンパクトなトレーニング方法にして保護者に紹介していくことで,このような視点をこれまで指摘されたことがなく,そのため当初は半信半疑だった保護者との連携が深まり,卒業後のトレーニングの継続も可能になりました。【2010年3月27日】
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
通常学級でできるビジョントレーニング
小学校I先生の事例
通常学級の中にも,個別の支援を受けるかどうかのボーダー上の子がいます。こういった子どもは,自尊感情が低くなりがちです。学級でみんなが同じ取り組みをする中で,苦手を持つ子どもたちの能力も引き上げていくために,次のような取り組みをしました(2年生での取り組み)。1,えんぴつに補助グリップを付け,正しい持ち方を意識させた。特に柔らかい素材のものを選び,指先の力をつけさせた。
2,朝の会で,保健係が手の運動・目の運動をして,目と手の協応運動と目の追従運動(2人ペア)のトレーニングをした。
3,体育の時間は感覚運動を多く取り入れ, まねっこ遊びも取り入れた。
特に漢字の形をとらえにくいA児は,目の追従運動をするたびに痛がっていましたが,3学期には筆圧が増し,漢字も正しく書けるようになってきました。板書の書き写しはまだ時間がかかるものの,速さも量も増えてきています。1学期の段階では百マス計算が苦手でできなかったのですが,今ではみんなと変わらないくらい速くなりました。その後も目の訓練と計算力向上のため,百マス計算には,毎日取り組んでいます。
また,マスの中に字が入らなかったB児は,2学期には小さい字も書けるようになり,苦手な漢字を小テストで100点を取るようになりました。
いずれの児童も,今では明るく大きな声で発言できるようになり,楽しく毎日を過ごせるようになっています。 【2010年3月1日】
引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)
遊びながら,楽しく少しずつ
ビジョントレーニング倶楽部 K様の事例
小学校3年生の男の子で,週1回,通級教室に通っています。本読みが苦手で,読んでいる場所を見失う,同じところを2度読んでしまうなどのことがあり,球技など運動全般に苦手でした。集中力の持続も難しい状況でした。
検査をしたところ,両眼をよせる力が弱く,眼球運動,眼と手の協調性,図形認識にも問題がありました。
週1回,1時間,次のようなトレーニングに取り組みました。
・ビジョントレーニングPCソフト ・ひらがなチャート読み
・ひも付きお手玉にタッチ ・バッティング練習
・数字に順番にタッチ ・ブロックストリング・迷路 ・間違い探しの本 ・3Dの本
・ジオボード ・パズル ・バランスボード
6ヵ月後,ひらがなチャートの読みなどが向上し,眼と手の協調性,図形認識も向上しました。板書の速さもクラスで最後だったのが,真ん中くらいに終わるようになりました。本も自分から読むようになり,通級教室を卒業しました。
楽しく遊んで,いつも汗だくでトレーニングしました。本人が興味を持って取り組めたので,自信につながり,どんどん上達しました。ご両親に視覚の問題について理解していただき,温かく見守っていただいたことも上達につながったと思います。引用:図書文化(学ぶことが好きになるビジョントレーニング サポートページより)